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XYステレオの利点

True XYステレオマイクによるレコーディングには、以下のようなメリットがあります。

  • 自然なステレオイメージ
  • 左右の広がりと奥行きの正確な再現
  • 前面からの音をクリアに捉える能力
  • 放送用にモノラルへ変換しやすいこと

これらのキーとなっているのが、「左右の集音結果に位相ズレがない」いことです。この記事では、この位相ズレが音質にどのような影響を及ぼすかを、True XYステレオ方式と一般的なABステレオ方式を比較しながら探っていきます。

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XYステレオ方式とは

この写真は、特性の揃った2本のマイクを使用した、XYステレオ方式のセットアップ例です。左右マイクのダイアフラム(音を捉える振動板)が同じ軸上となるようにマイクを配置し、90°ないし120°の角度を付けて収録したい音源に向けて録音を行います。

左右のマイクが音源に対して距離が等しく、音源から発せられた音波が同時に2本のマイクに到達することで、どちらかの信号に遅延が発生することを防いでいます。​

この信号の遅延と位相はどのような関係なのでしょうか?

これを探るために、XYステレオ方式とABステレオ方式を比較してみましょう。

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XYマイク vs ABマイク

中央の音源(茶色のギター)から発せられた音波は、XY方式でAB方式でも、左右のマイクに同時に到達することが分かります。

それに対し、真正面から外れた音源(緑のギター)からの音波は、AB方式のマイキングでは左右のマイクにわずかな時間差をもって到達します。イラストでは、この遅延が緑色の矢印で示されており、音が左のマイクに到達するまでの経路がわずかに長いことを意味しています。

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AB方式の左右のマイクに生じる、具体的な遅延時間はどの程度でしょうか?

ここでは、AB方式の左右のマイクの間隔が、48mm離れていると仮定します。音源(緑のギター)が右45度の角度にある場合、左のマイクは右のマイクよりも約34mm音源から遠くなります。音は秒速340mで進むため、音波が左のマイクに到達するのは、右のマイクよりも約0.1ミリ秒遅くなります。

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では、この0.1ミリ秒の遅延は、オーディオ特性にどのように影響するのでしょうか?

物理的な距離によって生じる遅延は一定ですが、その影響は音の高さ(周波数)に依存します。ここで重要となるのが「位相」です。​

音の周波数が異なるということは、波長(音波の一周期の長さ)が異なるということになります。例えば、1秒間で1,000回振動する音波は「周波数が1kHz(1キロヘルツ=1,000ヘルツ)」と表されますが、この音波の一周期の長さは、1秒間で進む340mの中で1,000回振動していることから34cmであることが分かります。​

同様に、10kHzでは3.4cm(=34mm)、5kHzでは6.8cmとなります。

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遅延した左マイクの信号と、遅れていない右マイクの信号をスピーカーで再生した場合を考えます。

左右スピーカーの音は空間で合成され反対側の耳にも届いてしまうため、1kHzサイン波では40°程度の位相ズレで多少音が大きく聴こえる結果としても、5kHzでは位相が180°ズレ、つまり反転して打消しあって音が消えてしまうことになります。ノイズキャンセリングと同様のことが発生して音が変化してしまうわけです。​

また、10kHzのサイン波では位相が360°回転し逆に音が倍に強め合ってしまう結果となります。​

このようにマイクの設置方法と位相ズレの問題は思わぬ音の変化を引き起こしてしまうことがあるわけです。

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上の図は、左右の信号遅延による位相ズレが、周波数全体の音色にどのように影響するかを示しています。これは周波数-振幅特性と呼ばれるグラフで、この例では0.125mSecの遅延が左右で発生した場合に、合成結果としての信号がどの周波数で打消し合うのか?あるいは強め合うのか?をグラフの形で示したものとなります。​

遅延量が0.125mSecの時は周波数4kHz、12kHz、20kHzが打消し合って音が聞こえなくなるとともに、8kHz、16kHzの信号は強め合って振幅が倍になる姿が示されています。​一般的に遅延された信号の合成で形作られるこの周波数特性を「くし形(Comb)フィルター」と呼び、原音とは異なるクセのある音色となります。

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また、ポータブルレコーダーではない本格的マイク設置においても、ステレオ集音時の位相ズレ問題には注意を払う必要があります。

これを具体的に示すため、位相ズレの影響を受けやすい「ノコギリ波」を、True XY方式で録音した場合と、マイク間隔を広く取ったAB方式で録音した場合で比較してみましょう。

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本来、基音である500Hzの振幅を1とした場合、その倍音は比例して減少します。つまり、第2倍音(1kHz)では1/2、第3倍音(1.5kHz)では1/3、というようになります。True XYマイクではこの倍音構成が正しくキャプチャされていますが、ABマイクでは位相干渉が生じて合成波形が崩れている様が確認できます。この場合、倍音スペクトル(下図)にもコムフィルターの影響がはっきりと現れ、 鼻をつまんだような不自然な音色になってしまっています。

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ここまでご説明してきたように、True XYステレオマイクはその出自から左右マイクの位相差を原理的に持たず、左右マイクからの集音結果が合成されるスピーカー再生などの環境においても音色変化の無い安定した録音を得られます。​

また、位相ズレが無いことで得られるクリアな指向性により、自然なステレオイメージと定位感、奥行きの高い再現性が大きな魅力であり、ハンディレコーダーに搭載されるステレオマイクシステムの最適解と言えます。​

コンパクト型からスタジオ品質の大口径タイプまで、True XYステレオマイクを搭載したZOOMハンディレコーダーで、ワンランク上の高品質録音をお楽しみください。