クラフトビアバー×ポッドキャストスタジオ「雑談」の運営や、ポッドキャスターとリスナーを繋ぐマーケットイベント「Podcast Weekend」の主催など、ポッドキャストを黎明期から盛り上げ続けているSHIBUさん。今回、そんなSHIBUさんにポッドキャストとの出会いやZOOM機材を使ってきた収録の背景をお聞きすることができました。ポッドキャスターはもちろん、自分も始めてみたいと思っているリスナーも必見のインタビューです。
自身の経歴について
──まずはSHIBUさんのポッドキャスト歴を教えてください。
2004年に、MTVのVJだったアダム・カリーが「iPodで聴くBroadcast」なるステートメントを発表したことがポッドキャストのはじまりとされていますが、そのあたりに日本の隅っこでこっそり活動を始めたのが僕ら。当時深夜ラジオが大好きだった僕が友達を呼び集めて、 一番最初のエピソードを投稿したのが2006年の4月でした。

──収録のやり方などは誰かに教えてもらったのですか。
その当時、日本にはポッドキャストのチュートリアルが本当になかったんですよ。だから最初はMP3レコーダーをお金を出し合って買って、車のドリンクホルダーに挿してカタカタいいながら収録するみたいな。それから、海外のブログを和訳してダイナミックマイクをミキサーに繋いだらパソコンに音が入るらしいと知って、地元の楽器屋さんにマイクを買いに行って。でも、「ボーカル?」「いや、ボーカルではないです」って、ネットラジオと恥ずかしくて言えなかった時代だったので、ちょっと気まずかったりしながら買いました(笑)。
──その頃はどのような番組を配信していたのですか。
僕自身、関西に近い徳島の生まれで。やっぱりお笑いの文化に染まったラジオに愛着をもっていたので、周りのエピソードトークみたいなものが主でしたね。

──そこから今の本格的な活動には、どうシフトしていったのでしょうか。
ポッドキャストって、2008年にスマートフォンが登場した時や、2015年頃にスマートスピーカーが登場して「ながら聞き」が広がった時、2017年頃にAirPodsで耳から情報を摂取するようになった時など、ガジェットの登場とともに盛り上がる兆しがあるんですよね。僕は元々デザイン業界で仕事をしていたんですけれども、本当に音声が来るかもなみたいな予感から軸足を徐々にポッドキャストにシフトしていって、TOCINMASH(トッキンマッシュ)というグループで正式に活動をし始めたのが2009年頃。そして、機材を揃えるために手にしたのがH5でした。
──なぜH5を選んだのですか。
H5はまず一番コンパクトで使い勝手が良かったんです。電池駆動で持ち運べる。そしてマイクを挿すだけで完結する。究極なまでにシンプルで、忠実に音を収録するには潔くてちょうど良かった。あとは、カメラでいうところのレンズみたいに取り外しができて、目的とか環境とかによってマイクを替えられる。これで環境音を録ったりもしていましたし、3~4人で収録をする時は拡張のアタッチメントも使っていました。ゲスト収録などで移動することも多かったのですが、H5ならスタンドとマイク2つずつバックに詰めて行けたのでめちゃくちゃ重宝しました。


コロナ禍の収録環境の変化
──その後、コロナ禍にもなりましたが、収録のやり方にも変化はありましたか。
そうですね。コロナ禍でリモート収録になったときには、僕はまずH2nを選びました。リモート収録で気を付けることは3つ。音質と環境と遅延。遅延は、インターネット速度を充足させるしか方法がない。環境は吸音パネルを使ったり、防音するとか。最後に音質は、同じマイクにするのが基本でした。何でH2nかというと、マイクと一体型だったので1台を先方に送れば、同じ環境で録音できたからなんです。これをメンバー分3、4個買って、今でも続いている「NOTSCHOOL」っていう番組を録ってましたね。ミニマムな使い勝手というのは、ずっと僕がZOOMに求めている、ZOOMが叶えてくれる部分でもあります。あとは、ミニマムと言えばF2も愛用していますね。

──F2はどのような使い方をされているのですか。
僕らがメンバーシップ限定で配信している「カーステ」という番組があるのですが、これは車でドライブしながらF2で収録しています。32bitフロート録音なので音割れも気にしないで、電源入れて録音ボタンを押すだけっていうのがよくて。きっかけは元テレビ東京の上出遼平さんによるポッドキャスト番組「ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision」に衝撃を受けたことでした。今まで、音声コンテンツというのは室内で静かな中で収録するのが当たり前だったけど、屋外の環境音の中で臨場感たっぷりに人の声を録って作品にするのを聴いた時に、こんな自由でいいのかって思ったんです。それで買ったのがF2でした。ZOOMの中で一番使っているのはこのF2かもしれません。

──屋外の収録で何か印象に残っているエピソードはありますか。
収録のつもりもなく友人と外でコーヒーを飲んでいて、すごい面白い話になってパッと録音ボタンを押した音源がよかったことですかね。大抵の場合、マイクの前に座ると人って身構えて急によそ行きの感じになるんです。でもピンマイクって邪魔にならないし忘れるんですよね。これはマイクに不慣れな人との収録においては、意外と重要なことだと思っています。
Podcast Weekendや雑談
──では、ここからはSHIBUさんが主催している「Podcast Weekend」や「雑談」についてお聞きします。まず、Podcast Weekendはどのような経緯で始められたのでしょうか。
始めたのが2022年。ポッドキャストに対して何か恩返しをしたいと思って立ち上げたのがPodcast Weekendでした。それまで、ポッドキャストのイベントはトークイベントがメインだったんですが、Podcast Weekendはマーケットイベントなんです。農家、テック系、科学者、デザイナーさんなど様々なポッドキャスターさんがいるので、その本業を前に持ってきたイベントが面白いと思ったんです。
──ポッドキャストには色んな仕事やカルチャーが集まっているんですね。
そうなんですよ。「マーケットイベントがあるよ、色々なものを売ってるよ、遊びに来てね」ってすれば、それぞれの番組のグッズとか、農家の方なら野菜などをきっかけに、ポッドキャストに馴染みのない方との接点が生まれる。こうやってポッドキャスト文化の裾野を広げていくこともテーマだったりします。前回の開催だと2日間で延べ4,800人もの方にご来場いただき、関わってくれたポッドキャスターさんも100組を超えて、ありがたいことにPodcast Weekendは国内では最大規模のポッドキャストの祭典になっています。



──番組と新しいリスナーを繋ぐイベントにもなっているんですね。では、同時期に始められたという「雑談」にはどんな背景があったんですか。
「雑談」というのは、クラフトビアバーでありながら一般の人が利用できるポッドキャストスタジオです。現在までに300組を超えるポッドキャスターの方に利用いただいていて、リスナーの方含め、皆が自然に集まれる空間を、1年中体現できる場所を作りたいねというところから始まりました。あと、ポッドキャスターってシャイな人が多いので、来るきっかけとして立ち上げメンバーの一人が好きだったクラフトビールのビアバーをくっつけたんです。
──クラフトビール片手にポッドキャストの公開収録を聴けて居心地の良い空間ですよね。
今では、クラフトビール好きや、東中野の近所の人なども集まってきて、いろんな人が混ざりあって雑談を繰り広げるお店になりました。クラフトビール目的で来店された方がポッドキャストリスナーになったり、たまたま近所に住んでた方やクラフトビールのブリュワリーの方がポッドキャストを始めたり、いろいろな化学反応を起こしています。


──他にも株式会社雑談として様々な活動をされていますよね。
そうですね。音声という文化を広げるために、雑談では毎月オススメのポッドキャストを紹介する番組を作ったり、Spotifyを使って1日中聴けるラジオみたいなプレイリストを広く提供したりしています。あとは、ポッドキャスト制作会社としてもここは機能しています。語弊を恐れずに言えば、ラジオとポッドキャストって全く別のものなんです。作る内容も違えば、求められるものも違う。なので株式会社雑談ではポッドキャストだけを作り続けてきたチームの知見を活かして、いくつかの企業番組とかインフルエンサーの番組のサポート、制作をしています。これ実はあんまり表では言ってなくて、ビールを売っている変なスタジオって言ってるんですけどね(笑)。
ポッドキャストの収録機材と始め方
──「雑談」ではZOOMの製品も使えるんですか。
はい。元々P4を常に置いていました。このポッドキャスターのための機器っていうのが出た時はポッドキャスト業界がざわめきましたよ。とにかく4人まで収録できて電池駆動で持ち運べる。「ポッドキャストの機材、何を買えばいいですか?」って相談されたらずっとP4をお勧めしています。

──今回、USBマイクで使えるP2という製品が出たので実際に体験してもらいましょう。
(P2体験後)
これはすごい。ポッドキャストはじめたての人はUSBマイクを買ってる人が多いんですよね。P2はXLRマイクを一から買う必要が無くてUSBマイクなのが良い。そしてここやばい。AIノイズリダクションとコンプ。特にAIノイズリダクションがすごくいい。音声の編集ソフトも初心者にとってはハードルが高くて、ノイズキャンセリングするとかいうのもやっぱり難しいんですよね。だから良い音を求めるんだけどどうしたらいいのかわからないって人には、これからはまずP2を勧めていくと思います。

──ありがとうございます。P2でポッドキャストを始めてもらえる方が増えると我々も嬉しいです。
ZOOMのポッドキャスト専用機材は音響機器の難しいところをバッサリカットしてくれているので勧めやすいんですよね。もちろんポッドキャストは、スマホ1台あればできるので、まずは声を録って発信することが入り口。一度でもそれをして誰かに聴いてもらってリアクションを得た時、やっぱもっともっとって欲が出ます。その後に、その人の収録環境によって適切なZOOM製品を選んでいくのがいいと思います。ポッドキャスターのタイプに合わせて、色々なラインナップがあるのがZOOM製品の特長でもあると思っています。

これからのポッドキャスト、ポッドキャスターへの想い
──SHIBUさんは今後、国内のポッドキャストシーンはどのようになっていくと思いますか。
現時点での明確な課題もあって、それはポッドキャスターが自活できていないってことなんですよね。日本では僕のようにポッドキャストを含む音声だけで仕事をしているような人って本当に数えるほどしかいないと思うんです。海外ではスタンダードになってきている、ポッドキャストで収益を得られる仕組みを作るというのがミッションだと思って動いています。ひいてはそれが、あらゆる魅力的なクリエイターが、音声に魅力を感じて集まってくる動機にも繋がるはずですし、音声という場所を今以上に魅力的なところにすると僕は信じているんですよね。
この先の日本のポッドキャストシーンが、プレイヤー・リスナーともにさらに広がりを見せ、市場全体も成長していく未来を願っています。

SHIBU
ポッドキャスター
TOCINMASH 主宰、合同会社TCM, 株式会社雑談 代表。
グラフィックデザイナー、ウェブデザイナー、イラストレーターとしてキャリアを重ねたのち、2020年より音声コンテンツ制作に軸足を置く。2006年ポッドキャスト黎明期より活動する技術と知見を活かし、2022年から「Podcast Weekend」を立ち上げ、さらに同年、新たな活動拠点として「雑談」を創設。現在、自身のポッドキャスト作品としては、TOCINMASHとして、19年に渡り複数の番組を配信中。