野添志朗さん

野添志朗|ミュージックフロント合同会社CEO、サウンドクリエイター、プロデューサー、ミュージシャン



2017年、アーティストやパフォーマーの派遣、音楽制作、映像制作を手掛ける「MUSIC FRONT」を創業し、企業イベントのバンド演奏、レコーディング、ライブサポート、PAオペレーターなど多数のエンターテインメント関連での実績を重ねる一方、ラジオドラマ、ラジオCM、テレビCMなどのレコーディングも担当。近年では、特にASMR録音やバイノーラル録音の手法をいち早く取り入れた立体感・臨場感あるサウンドを追求。BURGER KINGやUber Eats JapanなどのCMで聞くことのできる咀嚼音やバイノーラル音声、radiko10周年記念企画の「青春ラジオドラマ:オートリバース」では、台詞、背景音、環境音、効果音にいたるまでほぼ全ての音をバイノーラル録音。そのレコーディング機材として活躍したのが、ZOOMのハンディレコーダー『H3-VR』や『H8』だという。

H8とH3-VRを組み合わせて収録

H8とH3-VRの組み合わせで、ラジオドラマを収録

ホールにH3-VRを設置

ラジオドラマでは文化ホールで実際にファンの声援をエキストラ130人で前列・後部列を2レイヤーで収録しMix し満席を演出

ASMRやバイノーラル音声の魅力とは?

日常生活の中に溢れている人の声や会話、生活音、環境音、車や電車・バスなどの乗り物、料理や食事の音、自然に溢れている海や山や川、せせらぎ、鳥の囁き──。全てが人が生きていく上で必要な音です。その音をじっくり細部に渡って集中して聴くことがこんなにも感動的で刺激的で新鮮で癒され心地良いということに気付かされます。ASMRの魅力はその音自体を際立たせ、人の耳では拾えなかった音や気付かなかった音を立体的な臨場感で録音できることですね。咀嚼音はその典型で人の欲求の一つである「食欲」を、究極に聴覚を刺激し脳を掻き回して満たしてくれ、心地良い、美味しいと耳と脳で感じることができるんだと思います。

バイノーラル音声は目の前の音だけでなく背景音や環境音に非常に適しています。目を閉じると距離感や位置がありのままに、そして映像を見ているかのような感覚になります。音声だけで映像を超えるような感覚になれるのはバイノーラル録音の素晴らしい効果ですね。今後はもっとCM・ドラマ・映画・各映像にバイノーラル音声やASMR音が必要とされると思います。すでに新たな広告宣伝方法として大手広告代理店と企画が進んでいまして色々な提案をさせていただいております。公開されたらメディアやSNSで注目されることと思います。その他、広告宣伝以外でも医療関係や教育、観光・各自治体でのPR、地図などあらゆる可能性があると考えています。そしてそのアプローチも行っていきたいと思います。

学校の屋上にH3-VRを設置

学校の屋上から聞こえる環境音をバイノーラル録音することで、リスナーはラジオドラマの世界に入り込める

野添さんの機材

ZOOM H3-VRを選んだ理由は?

3年前にGT-R専門店のクライアントからGT-Rの特別な限定車数台のエンジン音、マフラー音などASMR録音で映像と制作して欲しいと相談があり、その時は音楽制作用のマイクやスタジオ機材などを持ち込んで録音しました。もちろん音は綺麗に録れたんですが大掛かり過ぎて結構大変だなと思い、ASMR録音用に新たに機材を導入しようと探しました。ポイントは音のクオリティ、これは絶対的に外せないですね。音楽家としても高音質にはこだわりがありますので。そしてコンパクトで現場での操作性も大事なポイントでした。

そういった観点から『H3-VR』を採用することになりましたが、実際にラジオドラマの収録では非常に活躍してくれました。監督の演出を叶えるために生徒同士が殴るシーン、湯船に浸かるシーン、手持ちで主人公2人と一緒に歩きながら録音するシーンなど様々なシーンに軽くてコンパクトで取り回しが良く操作もiPhoneでリモート操作できSub Roomからでも操作できるのでエンジニアとの収録作業もスムーズにできました。

バイノーラル録音機器は高額で結構大きなサイズのものも多いですが、『H3-VR』はコストパフォーマンスも優れていて録音後のPCへのダウンロードも簡単。現場で即納品の場合も、2chステレオのWAVファイルに自動変換されるので非常に簡単で助かります。

野添さん収録機材

ZOOM H8はどのように使っていますか?

『H8』は多目的なレコーダーとして使用しています。用途に応じてマイクカプセルを付け替えたり、スタジオ以外の現場での録音にも使用しています。8チャンネル入力、最大12トラック同時録音、交換可能なマイクカプセルは凄いの一言ですね。見た目のメカ的なデザインも非常に気に入っています。音質も安心安定の高音質で録音できますので、ASMR(咀嚼音)やナレーション、その他様々なレコーディングに使用しています。現場は時間との戦いですので何十テイクも録音することが多いため、録音を優先しながらテイクの状況を記録して後でじっくり編集します。

ターンテーブルの上にH3-VRを設置

立体音像を動かすため、H3-VRをターンテーブルの上に載せて回転させるという実験的なアプローチも

収録の際に心がけていることは?

広告代理店や制作会社もASMR録音やバイノーラル録音に関してはほとんど経験がないので、必ずプリプロ段階でアドバイスを求められます。「この音がバイノーラルで欲しい」とか「こんな演出をしてもバイノーラル録音でも問題ないですか?」などの要望に対しても、新しい実験的なアプローチも採り入れて、監督やプロデューサー、クライアントのイメージに叶う音像を実現させてきました。

私がとにかく気を使うのは不必要なノイズです。バイノーラル録音ではその場所の声の反響や空気感も含めてまるごと録音されるため、シーンに不必要な音、例えば遠くで車が走る音や工事している音、人の話し声、カラスの鳴き声などに十分に注意を払う必要があります。そういった不必要なノイズのせいで日を改めて録音しなければならないといった苦労もありますが、まるでその場にいるかのようなバイノーラル録音の素晴らしさはやはり何物にも代えがたいものです。ラジオドラマの収録ではワンシーンごとに「OK!素晴らしい!」と監督に仰っていただき、全てのエピソードをバイノーラル録音で録り終えることができました。

海とH3-VR
野添志朗さん

最後に、他のクリエイターへのメッセージをお聞かせください

ASMR録音・バイノーラル録音が身近になりもっと認知度が増していく中で誰でも手軽に日常を音で楽しむことができます。私は、映像が脳内に想起されるようなサウンドのことを「サウンドジェニック」と呼んでいますが、フォトジェニックからサウンドジェニック、音ジェニックの可能性はもっともっと広がります。きっと今年がサウンドジェニック元年になるのではないでしょうか。

ASMR録音・バイノーラル録音が従来の音楽や映像とは違う新しい世界へ導きます。この掲載が公開される頃にミュージカル舞台で初となるバイノーラル録音を取り入れた公演と千秋楽はバイノーラルライブ配信も行います。今後は音楽や映像、そしてミュージカルなどにもASMR・バイノーラル音声の融合が音楽と映像・舞台に新感覚の驚きと感動を生み出してくれると思います。『H3-VR』は私の仕事、人生に必要不可欠な存在になりました。ZOOMさん、素晴らしい機器を開発していただき、本当にありがとうございます。ZOOMユーザーとしても今後の新製品も期待しています。

私がバイノーラル録音やASMR録音を仕事の一つにした理由は日常に溢れている人の声や自然の音がこんなにも素晴らしいと知ったから。普段は音楽などを作り生み出す側、それとは真逆に作らない自然の音の素晴らしさに魅せられて。私たちは音の中で生きている。

野添志朗サウンドクリエイター、プロデューサー、ミュージシャン
森の中のH3-VR

MUSIC FRONT制作、H3-VR収録のバイノーラル音声サンプル


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