青・赤・銀の鼻の色をした三人が織りなすピアノ・トリオバンドのH ZETTRIOを率いる、H ZETT M氏がZOOM CREATORSに登場! 2019年1月1日から毎月1曲ずつ新曲を配信リリースし、2023年12月1日に60ヶ月連続の60作目となる「Dynamics」を発表。それが単一音楽ユニットによるデジタルシングル連続リリース月最多数というギネス世界記録に認定されました。取材の場は、60ヶ月連続配信達成記念のライブが行われるブルーノート東京。数々の先人が演奏してきた場所で、H ZETT M氏に音作りの根源をインタビュー。
作曲の第一歩は絵を描く感覚から
──まずは“ギネス世界記録”認定、おめでとうございます! 単一音楽ユニットによるデジタルシングル連続リリース月最多数という偉業達成までは長い道のりだったかと思います
「音楽を作るのがただ好きっていうのと、世の中にはすごく魅力的な音楽が溢れていて、その音楽たちに刺激を受けて、また作りたくなる。そんな循環を続けた結果、今回のギネス達成に繋がりました」
──H ZETT Mさんが初めて作った曲ってどんなものでしたか?
「4歳ぐらいの頃、楽譜を真似して五線譜に丸を書いていたんです。絵を描くように。それが多分、初めての曲作りだったと思うんですが、 “始まったな”って感じが今でもすごくしています。まだ音階も理解していなかった時で、作曲してるっていうより、絵を描いている感覚の方が近かったと思います。それがだんだんとここはこの音になるんだっていうのを理解していって、だんだんと描いていた丸が小さくなっていって、みたいな」
──当時から独自の感覚をお持ちだったんですね。大人になった今でもこれは自分だけかもしれないって曲作りの方法などあったりしますか?
「重視してる点は、音の流れというか、ひとつの音がどこに行きたいかを考えるってことですね。この音がどこに行きたいか向き合って、この上にくる音や下にくる音がどんな響きをすると綺麗になってくれるかなって考えますね。よく漫画家さんが言う、自分でもわかんないけど自然とキャラクターや話が進んでいく、みたいな感じは音楽にもあって、音符というか、この音がどこに行きたいかっていう視点で曲作りしています」
──その感覚っていつ頃から持っていましたか?
「小さい頃から、この曲いい曲だなとか、好きじゃないなって好き嫌いがあったと思います。高校や大学で音楽を専門的に勉強して、和声や音の流れのロジックを理解すると、だからこの曲は綺麗に聞こえる、だからこの曲はいい曲なんだって確信する。そんな気付きが繋がっていって、いい曲ってこうだなって自分の中にある感じですね」
視覚的な刺激から曲作りをスタートすることも
──いい曲に育て上げていく最初の音って、どこで見つけるんですか?
「それは感覚的に選んだ方が面白くて、例えば雑誌とかジャズやヒップホップのアーティスト写真を見ながら曲を作るっていうのもすごく好きなんです。最近とくに刺激というか魅力的なのは、ジャズドラマーとして活躍しているマカヤ・マクレイヴンやカッサ・オーバーオールですね。見た目もおしゃれでプレイも上手いっていう。彼らならこんな風にやってるんじゃないか、みたいなイメージをすると曲もすぐできちゃう」
──幼少時の絵を描きながら作曲していたという感覚に近そうですね。ピアノを始めたきっかけというのは?
「本当に小さい頃なんで、あんまり記憶はないんですけど、ピアノをやってみたいって僕が言ったから始めたんだと思います。そこへの誘導も多分にあったとは思いますが。気がつけば毎日ずっと2時間くらい弾いてたんですけど、楽しくて続けていたというより、ただ弾いていたという感じですね」
──習慣化していたピアノとの生活に変化をもたらしたものはありますか?
「中学生の頃、PC-9801っていうパソコンで音源ソフトを触ってて、その中に収録されているデモ曲をよく聞いてましたね。音源モジュールとかシンセサイザーとか買うと、この機材はこんなことできるぜ!みたいなデモが入っているんですけど、いい曲があったりするんです。それに刺激を受けたのは記憶に残っていますね。ピアノを習って、パソコンで音楽ソフトやって、エレクトーンもちょっと齧ったんですけど、エレクトーンからシンセサイザー欲しいってなって、そこから音源モジュールにも手を出し始めてって流れですね」
なんでもいいや!から単願で音楽学校へ
──面白いと思ったら、満足いくまで探求していくタイプなんですね。そんなH ZETT Mさんが音楽を仕事にするって心に決める出来事などあったんですか?
「それは意外となくて気づいたらって感じなんですけど、強いて言えば、音楽の高校に単願で行ったことですね。今になって大人の視点で言うと単願で落ちたらどうするんだって思うんですけど、その時はなんも考えてなくて消去法で名前に音楽ってついている高校に行ってみようかと思ったんです。もうなんでもいいやって感じで(笑)」
──その“なんでもいいや”が、こうしてブルーノートで2デイズ公演へ繋がるってすごいです!
「ブルーノートって響きがカッコいいですよね(笑)。今回のライブでは、この場所で演奏してきた往年のジャズプレイヤーのいいプレイをフィードバックさせたいです。やっぱり音楽をやっていることで楽しい風景にたくさん出会えたなって思います。よっしゃ!っていう高揚感が時々体験できたり。自分でも面白いと思える曲ができた時はすごくテンションが上がりますね。」
──それの感覚って曲作りの段階から感じるものですか?
「途中からありますね。面白い曲っていうか、自分でもこれ、発見ではないだろうか、みたいな音の使い方というか。そういうのが曲の中にあると面白いですね」
仕事も趣味も音楽。そんな生活を支える相棒たち
「もはや趣味が音楽なんですよね。趣味というか生活の中心になっています。だから、楽譜を書くためのシャーペンを集めるとかが趣味かも(笑)」
──シャーペンですか!?(笑)
「ちょっとお値段高めの製図用シャーペンがカッコいいんですよね。その中でも書きやすさや握った時のちょっとしたバランスの違いがあって、自分の指にフィットするシャーペンを探し求めるみたいなことはやってましたね。僕のオススメはプラチナ万年筆っていうメーカーのプロユースと、ファーバーカステル社のTK FINE Vario。これは青色を使っています」
──こだわりの深さが伺えます。ZOOMのエフェクターも使用していただいてると聞いたんですが、選んだ理由を聞いてもよいでしょうか?
「やっぱり演奏者は常に刺激を求めているというか、どこかに今以上に良くするヒントはないか探している状態だと思うんです。エフェクターを通して出る音に、そのヒントを見出した瞬間は“よっしゃ!”ってなりますね。ZOOMのエフェクターは、その“よっしゃ!”ってなれる瞬間が多いんです。もうエフェクト万歳です(笑)。あと僕、ZOOMのハンディレコーダーも10年ぐらい前に買って使ってましたよ。マイクの立体感がすごくて気に入ってました。非常にリスペクトしているメーカーさんです」
──ありがとうございます!これからも音を歪ませていきます(笑)。最後にH ZETT Mさんにとってピアノ・シンセサイザーとはどんな存在でしょうか?
「ピアノは基本、これがなければ何もできません。シンセサイザーはびっくりするような音が出るというか。聞いたことがない音が出る夢の楽器です」
音楽のプロを目指している方へのメッセージ
”挫折は大いにしたらいいと思います。僕も中学の時にエレクトーンコンクールに自信満点の鼻高々で出たのですが、他の子のレベルがさらに高くて本番に出たくないってなるほどの挫折を味わいました。その次の日から毎日来年のコンクールをイメージして猛練習しましたね。井の中の蛙にならず、広い世界を見ることが重要です”
H ZETT M
ピアニスト/エンターテイナー/音楽家
超絶技巧に加え、”無重力奏法”と形容される超人的パフォーマンスは実験音楽と高度な芸術性が融合している。この時代だからこそ生身の人間の可能性を追求し、ただひたすらに音楽を奏でるというテーマのもと、グランドピアノ1台と彼の体だけでの全26曲レコーディングを収録したアルバム『未来の音楽』、『魔法使いのおんがく』、『共鳴する音楽』を発表、2021年9月には同シリーズの最新アルバム『記憶の至福の中に漂う音楽』を発表した。
これらの作品を機に始まったピアノ1台だけでの”独演会スタイルライブ”は、時にシニカルでユーモア溢れる彼の人間性が現れ、彼の一挙手一投足にまで満員の観客が釘付けになる。並行して活動しているトリオ編成によるバンド”H ZETTRIO”とは一味違ったその世界観は各方面から好評を得ている。
毎月連続リリースのギネス世界記録に認定された60作目、H ZETTRIO「Dynamics」